補償コンサルタントの仕事とは?―地域に道路が通る、その時―

住んでいる土地に道路が通ることになったから、家を移らなければならなくなった―。

聞いたことのある話かもしれませんが、もし自身の身に起こったら果たして生活はどうなってしまうのか、不安に思う方もいらっしゃるのではないでしょうか?

道路を建設したり、河川の幅を広げたりといった公共事業において、家や店舗などの改築や移転の必要が生じたとき、土地や建物を調査し、適正に評価するのが補償コンサルタントの仕事です。平たく言うと、改築や移転に見合う金額を算定する仕事、ということになります。

実は公共の工事では、実際の建設費よりもこの補償にかかる予算のほうが大きいことがほとんど。補償コンサルタントはまさに公共事業の“縁の下の力持ち”的な仕事なのです。

補償コンサルタントは実際どんなことをやっているのか?

一口に「補償コンサルタント」と言っても、その業務は非常に多岐にわたります(参照:サービス&ソリューション「補償コンサルタント」)。今回は「家が建っている場所に新たに道路が通る」という場合を想定して、利水社が手掛ける主な仕事をご紹介したいと思います。

土地の所有者を明確にする

道路がどこを通り、どんな広さになるのか、工事の概略が決まったら行われるのが、「用地測量」です。

用地測量では、道路の建設に必要となる土地(用地)の正確な形や位置を計測すると同時に、その土地の所有者や境界を明確にしていくことが重要な業務となります。

土地の所有者を調べるにあたっては、法務局で登記の記録を交付してもらうのですが、古くに登記された土地の場合、その方がすでに亡くなっていることも多々。そのため、戸籍をもとに存命の相続人を調べていくという作業が必要になります。

利水社のベテラン技術者によると、過去には、明治生まれの方が登記した水田の相続人が55人もいたという事例や、土地の境界の確認に立ち会っていただくために所有者など関係者を調べたところ、97人に上ったという事例もあるそう。

私たちのような測量会社が補償コンサルタントの事業も手掛けているのは、この用地測量から補償額の算定までをワンストップで行うことが出来るという強みがあるからなのです。
 

建物などの調査をする

用地測量が済んだら、土地の価格を算定する「土地評価」(補償業務のひとつ。石川県では不動産鑑定士が行う場合が多い)と並行するかたちで、その土地に建つ住宅などの調査に入ります。

技術者が数人で現地に赴き、部屋の広さや高さ、壁や床の仕上げ、設備の位置や大きさなどを細かに調べていくのですが、この時、建物だけでなく門などの工作物や、庭木も調査の対象となります。

そして、現地調査をもとにCADで図面を作成、基準に照らし合わせながら、ひとつひとつの単価を算定していきます。

果たしてどのくらいの算定額になるのか、気になるところかと思うのですが…、例えば柱の場合、太く高価な材質を使っていて、築年数が新しいほど補償単価は高くなります。造作の収納など移動できないものも補償の対象。庭木も種類や太さによって額が変化します。

また、生活している方の人数や、敷地内にどれだけ多くの物があるかで、引っ越し費用の算定も変わってきます。

どのように改築すべきか、あるいは移転すべきかを検討する

算出した金額をもとに、移転の要不要や改築の際の工法を検討します。

住民の方の今後の暮らしに大きく関わることなので、ここが補償の山場。

重要となるのは「いかにこれまでの生活が維持できるか」という点になります。

例えば建物の一部に用地がかかる場合、建物を再現する必要がなくあまり暮らしに影響のない部分であれば、切取補修。そこの機能がないと困る場合は、機能を維持できるよう部分的に増改築。場合によっては「曳家(ひきや)」といって、基礎から建物のみを浮かせて敷地内にずらす工事を行うことも。生活空間が大きく失われる場合は、他の場所に移転ということもありえます。

この際、「せっかくだから新しい家に建て替えたい」、「愛着のある家だから壊したくない」といった居住者の心情は残念ながら判断の要素にはなりません。

あくまで算出した数値を比較し、より効率的かつ経済的な方法を客観的に判定します。それが最も公平で適正な評価ということになるからです。

そして最終的な補償金を算定、報告書にまとめていきます。

 

店舗や工場の場合はどんな補償があるのか?

ここまで主に住宅の補償に関してご紹介してきましたが、道路がかかるのが店舗や工場の敷地になる場合は、土地や建物以外にも次のような補償の必要が生じます。

移転や改修による休業中に見込まれる収益の減少、従業員に対する休業手当、営業廃止となった場合の補償、といった「営業補償」。

また工場の場合、用地がかかるのがひとつの機械がある場所だとしても、その機械を移すことで生産ラインが乱れてしまう場合は、大掛かりな改修工事が必要になります。

これらの調査の際には、会社の経理書類を確認しながら算定を進めていくのですが、対象となるのが全国的なメーカーの場合、ひとつの店舗がなくなったらどれだけの影響が出るか、本社の帳簿を見せてもらいながら検討するなど、調査の範囲も広がることになります。

さらに、帳簿での把握が不十分だった場合は、技術者が店舗に何日かお邪魔して来客数を調べたり、駐車場の一部が用地と重なる場合は、そのスペースが失われても営業が成り立つかどうか、駐車場の利用状況を数日にわたって調査したりすることも。足を使った地道な調査も時に行われているのです。

 

以上のように、ひとつの公共工事を取り上げてみても、補償コンサルタントが携わる業務は細かく膨大なものになります。

そのぶん、自身が関わった現場に新たに建設された道路などを見ると、やりがいもひとしおだとか。

今日も日本中で進められている様々な公共工事。その円滑な進行のために、補償コンサルタントが黒子のように活躍しています。